たしかな愛

半分くらいはフィクションです。

やさしく象にふまれてしまう

此処はずいぶん寂しいところ。半年前、私を此処に連れ戻した貴方も再び姿を晦ましてしまったので、私ももう十分なのではないかしら、などと思っています。

恐らく貴方は私の事を知らないでしょうし、私も貴方のことを知りません。しかし、私を此処に留まらせていたのは他でもない貴方の詩でした。これだけは確かです。お礼を言いたかったのにすっかり伝え損ねてしまったので、こっそり此処にしたためておきます。

それにしても、貴方が書き残した「出逢いきれたらいい」という言葉には、なんだかほんとうに敵わないと思いました。脆さと潔さを併せ持った、貴方にしか書けない言葉です。そう言えば貴方の詩は、いつも運命的な煌めきを孕んでいたように思います。「出逢いきれたらいい」私は下北沢の小さな書店で、貴方の詩に出逢ってしまったあの夏の日に、想いを馳せずにはいられませんでした。そして、やはり貴方は何処までも詩人なのだと思いました。それは時にかなしいことかも知れませんが、かなしいばかりでもない筈です。詩人よりうつくしいひとを、私は知りませんから。

どうか健康に過ごしてください。風邪をひいたりしないように。そして願わくば、気が向いた時分にまた、帰ってきて下さい、此処に。もう十分と言いつつ欲深い私は、もう少し此処で戯れながら、貴方を待っているつもりです。