たしかな愛

半分くらいはフィクションです。

とんがりコーラとんこつラーメン

金曜日 22時過ぎ。クライアントからのフィードバックを待つ間、上司とコンビニまで数百メートルの散歩に出た。3月だというのに寒さは増してゆくばかりで、吐く息は白い。

チームの今後やプロジェクトについて申し訳程度に話し合った後、鳥羽水族館のラッコの話をしながらミニストップの狭い店内を物色する。

「ラッコは地球上で一番毛深い動物なんだよ 水の中は冷たいからね」

「いっそ私たちもそれくらい毛深ければ良かったのですが」

「脱毛とか育毛とか考えなくていいしね」

 

コンビニというのは不思議な場所で、大抵のものは揃っているのに、いざ何か買おうと思うと、自分が欲しているものはここには何もない、というような気持ちにさせる魔力がある。

そんなわけで、何を買うべきか分からなくなっていつも通り途方に暮れていると、見かねた上司がおすすめ商品のプレゼンを始める。「頭痛がするくらい甘いチョコレート」とか「全て諦めた時に食べる冷凍ピザ」とか。気になる。

結局「これはとがってないとんがりコーン」と教えられたエアリアルと、「バカな味がするから飲んでみ」と勧められたジャックダニエル&コカコーラを購入した。待ちきれず会社まで戻る道で飲み始める。バカみたいな味!

 

さーて今夜は長丁場になりそうだ…と腹を括りオフィスに戻ると、ちょうどクライアントから電話が入った。メモ用紙を片手に身構えたけれど、意外にもフィードバックはなく、するりと承認を得ることができ、そのまま帰宅することに。

拍子抜けしたのと空きっ腹にアルコールを流し込んでしまってすっかり酔いがまわったのとで、私と上司は「あ、今すごい豚骨ラーメンの口」と言い始める。

「そういえばこの辺りってあまりラーメン屋ありませんよね」

「いや、実はこの大通りずっと行ったとこにあるんだよ」

「え」

我々は顔を見合わせ、無言で大通りに沿ってずんずんと歩き始める。

足取りは軽く、どんどん歩幅は広くなり、半分走るように吸い込まれるようにしてラーメン屋の暖簾をくぐる。

 

間も無く目の前にどん、と気前の良いラーメン丼が置かれ、我々は無言でそれを胃の中に流し込んだ。豚骨の匂いと体の火照りに浮かされながら、あとどれくらい、と思う。

あとどれくらいこういう生活ができるだろう。

始発で出社してコーヒー6杯とパニック!アット・ザ・ディスコで自分を奮い立たせながら、名もなき労働者としてラーメンをすすり、こんな時間に…という背徳感に苛まれながらスープまで飲み干して、店を出る。

 

店内が暖かったぶん、外の寒さが身に沁みる。吐く息は白く、けれど道ゆく人は皆鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気を漂わせている。

「3月かー…桜咲いたら花見でもしよう。丁度いい日本酒を仕入れたんだよね」と上司。

…あとどれくらい。ああ、でも。

「団子類は任せてください!近所に美味しい和菓子のお店があるので!」わたしは元気よく答える。差し当たってはこれで良いなと思いながら。

明日は休みだし、間も無く春だ。悪くない。