たしかな愛

半分くらいはフィクションです。

ふざけたダンスを踊って

「女が人を殺す映画ばっか好きやなあ」

半年ぶりに会った元恋人から呆れたように言われ、心外だ、と思ったけれど、その通りすぎたので口をつぐんだ。
物騒でごめん。でも、「女が」とか言うひとがいるから、そういう映画が好きな女がいるんだと思うよ、とか言ったら炎上しちゃったりするのかな。言わないけど。
そもそも男が「女」、女が「男」と言う場合にだけ含まれるこの微妙なニュアンスってなんなんだろうね。特に深い意味もなく使っていたとしても、やっぱり何か寂しさと苛立ちを覚えるこれは一体なんなんだろう。「私と貴方は違います」という線引きのように感じてしまうからかな。でもそれってよく考えるとヘンテコだよね、男も女も関係なく人間はみんなそれぞれ隔たれているのに、改めて線を引かれたからって怒ったり寂しくなったりするのは。
ああ長くなりそうだからやめようか、なんにせよ『テルマ&ルイーズ』と『ベイビーわるきゅーれ』はとても良いです。『ANNA』も『チャーリーズ・エンジェル』も。

頭の中でつらつら弁解していたらジンジャーハイボールとアツアツのチヂミが運ばれてきた。とりあえず頬張る。
オーダーの時、海鮮チヂミ(エビとイカが入ってるけどニラが入ってない)にするか、ニラとイカのチヂミ(ニラとイカが入ってるけどエビが入ってない)にするかでかなり悩んだけれど、ニラとイカのチヂミにして正解だった。チヂミにはニラが必要だ。もちろん人生にも。

鉄板の上ではサムギョプサルも焼かれ始める。
サムギョプサルって豚バラ焼肉って意味だから、「サムギョプサルを焼く」って「頭痛が痛い」みたいなことになっちゃってるのかもしれない。気になって検索してみたけれど、よく分からなかった。
まあいいや。
鉄板の上ではサムギョプサルも焼かれ始める。

それにしても半年って、長いような短いような、変な感じだ。
数日前、私のポストがXで若干バズり、それが元恋人のタイムラインにまで流れ着いたらしく、ひょんな事から久々に会おう、ということになったのだけれど、特にこの半年間は私にとって結構激動の半年だったりしたので、体感的には3年ぶりくらいな気がする。

いい具合に焦げ目のついたサムギョプサルをサンチュで包みながら、話は最近観た映画に戻る。
「俺は全然映画観てないな…あ、でも『花束みたいな恋をした』やっと観たわ」
「お、どうだった?」
「なんか菅田将暉サブカルやからすごい分かるけどちょっと鼻についたわ」
「やーそうだよね。私もちょうど昨日見返したとこで。あ、『ベイビーわるきゅーれ 2』で散々花束が擦られてたからなんだけど…見返したら有村架純がちょっとウザくてやだった。菅田将暉の「じゃー結婚しよ」が分かりすぎて。パズドラする気にもならんよな、と」
「そっちに感情移入したんや」
「社会人だからね…」
「でも確かに、俺ももう楽しいとかだけで恋しようってなれんなあ。やっぱ先を考えちゃうし。合コンとか行ってるし2人で食事行ったりする子もいるけど、休日が合うかとか、学歴…って言ったらあれやけど、教養というか価値観が近いかとか、金銭感覚が近いかとか、そういうので考えてしまうし」
「大人になったねえ」
「もう28になるしなあ。周りから向けられる目も変わってくるし」
28になったらそうなるのかなあ。私は曖昧に答える。

もうすぐ27になる私は、パズドラする気にもならんくらい忙しい時も、結婚してみたいかもしれんなあと思う時も、相変わらず嬉しいとか楽しいとかで人を好きになる。
昔から、穂村弘の歌集をリュックに忍ばせていて、バスに乗ることを「バスに揺られて」と言うようなひとが好きで、それは多分この先もずっと変わらずそうなんだと思う。どうしようもないことに。
私の中には、好きな人と好きなものや楽しい瞬間を共有したくてしたくて堪らない「絹ちゃん」がいる。
有村架純がちょっとウザくて嫌なのは、きっと私が誰より有村架純(というか絹ちゃん)だからだ。
おまけにそんな私の中にはいつも楽しいばかりの自分でもいられず、すごくすごく現実を見ようとしてもがいている「麦くん」もいて、だからいつもとんでもなく身勝手で必死だ。ウザくて可愛くて可哀想だね?
なんなら私は1人でも花束を束ねられるのかもしれない!(なんてこった!)
そして何よりそんな自分が割と嫌いじゃなかったりする。
めんどくせ〜〜!
まあいいか、どうせ自分だし。


20時過ぎ。2人分で足りるか心配したサムギョプサルできちんと満腹になり、ジンジャーハイボール一杯で程よくご機嫌になったのと、次の日が月曜日だったのもあって、私たちは早々にお開きにすることにする。
…が、そのあと私は、帰る途中でふらりと立ち寄った本屋で性懲りも無く新たな積読を買い込み、さらにご機嫌になってしまった。
家に帰るまで待てないので、適当な喫茶店に入って、タイトルに一目惚れして買った、犬飼愛生の『手癖で愛すなよ』を開く。タイトルが良すぎる本は積む間も与えてくれなくて困る。嬉しい。犬飼愛生って名前もすてき。

私は何十年と寿司を喰ってきたが、いまだわからないことがある
なんでこんなに好きなのかを
私が嫌いな煙のことを心底好きな人もいるしとろけるような顔で好きだ好きだ
なんならお前よりも好きと言われた気もするいやお前なんて呼ばれたことなかったわ
私は絶対とか一生とかずっととか信じないから結婚式もこそばゆい
ドラマチックな演出はいやあすごいなと思うだけで風船なんて飛ばしなさんな
ほんとうのドラマは小さな部屋で起こることだし誰にも知られないことよ

barのマスターはいいよな
いろんな秘密を知っていて言わないしそれは高級バターみたいな味がするんだろう
俺だけがつける帳面は美しいと夜な夜な書いているかもね

今日もインターホン鳴らしてください お待ちしております
私は毎回バター溶かしちゃう お寿司もおいしかった 一緒に食べる相手によるけどね
寿司が嫌いな人もいていいのよ牛喰ってもいいのよ
あなたはあなたの好きなものを食べればいいだけで
(…)
すべての事象を血として肉として書きますそれこそ牛みたいに喰われたい
最終的にはテーブルに美しく並べて
お互いおいしく食べあいましょう

私は寿司も煙も牛も好きだし、すべて美味しく頂きます。
なんなら今日は豚もイカもニラも喰ったし、マスターじゃないからバターも溶かしちゃう。そんなわけでこれを書いてる。(でも、これまで起きたほんとうのドラマと、これから起こるほんとうのドラマは、ぜんぶ独り占めするけどね)


ところで私は貰ったイヤホンを使い続けているし、夕方会う前なんとなく聴いていたHovvdyのTrue Loveも、そう言えば貴方に教えてもらった曲でした。これ読んでるか分からないけれど、教えてくれてありがとう。
帰り道、赤信号が青に変わる3秒前に渡り始めたのを見て、半年じゃせっかちは変わらないんだなあ、と少しおもしろ嬉しかったです。
いつも食べるのも歩くのも早くておもしろかった。
ひょっとするとGoogleマップには、多摩川沿いをすごい速さで歩く私たちが写っているかもしれないね。


「季節は巡り 色が変われば 観たことのある映画のようだと笑うのさ」

貴方の明るい未来は私じゃない誰かのために。私の明るい未来も別の誰かに。
けれど すべての事象は血となり肉となり、きっとすべては最終的にみんなで美味しく頂くために。
その時はまた乾杯できたらいいな。

youtu.be「ほんとに楽しかったありがとう〜!!」

24.03.03



珍しくアラームより早く目覚めたので、すごい勢いでこれを書いて、書き終えたらアラームが鳴った。勝手に何となく良い感じに花束っぽく書くなと怒られそう、怒られたら消します。
2度目のアラームが鳴る。さて、働くか。

24.03.05