たしかな愛

半分くらいはフィクションです。

300円で廻る地球

コインランドリーで知らない人の生活がまわるのを見ていた。かなしいことがあると、決まっていつもここに来る。私には洗える物も特に無いから、代わりに、誰かが何かを洗うのを隅のベンチに腰掛けてぼんやり眺める。

就活生めいた男の子(ワイシャツとハンカチを一緒に洗ったせいで青く染めあげてしまい、ちいさく悲鳴をあげていた)や、ヤングマガジンのグラビアページを丹念に読んでいる女の人、うつくしい藤色の風呂敷を抱えたまま微動だにしないお婆さん…小銭が落ちる音、控えめな咳払い、軋むベンチ、午後9時36分、雨音が遠のいていく。まっピンクの下着ばかりを洗っているひとがいて、眩しかった。明日は晴れればいいと思う。

 

外に出ると、じわりと夏の音がした。少し遠回りして帰ることにする。ファミリーマートでアイスコーヒーを買って、適当な曲を流しながら歩いていたら、プレイリストの底に沈めていたceroがぽっかり浮かびあがってしまった。急に恥ずかしくなって音量を下げる。脳味噌と心臓を、まるごとぜんぶ洗えたらいいのに。川沿いには真っ白な紫陽花がうんざりするほど咲いていた。

 

耳元で微かな歌声、

「遠くでも近くでも、愛しているよ、愛しているよ」

 

大好きで大嫌いな季節が、もうすぐそこまで迫っている。