たしかな愛

半分くらいはフィクションです。

ラブソングあげる

2021.01.30

コーヒー飲みに行きたいなんてただの口実だった。
本当は君の住む街を見てみたかっただけで、でもきっとそんな下心、君にはバレバレだっただろう。

腹心の友との逢瀬はいつだって最高だ。
昼過ぎ、君の家の最寄駅で待ち合わせて、黄色いコートを見つけた瞬間、僕はもう底抜けにハッピーだった。

僕の少し前を歩く君は、歌うように言葉を紡ぐ。
「ここのファミマには喫煙スペースがあって、いわば私の第二の家です」
「夏、このベンチでギター弾いてたら虫が降ってきて最悪だった」
「次の角には可愛いケーキ屋さんがあります」
僕の知らない君の生活を辿りながら、足取りはどこまでも軽くなっていく。
相槌うったりうてなかったり、喋るのがへたな僕が作り出す気まぐれな沈黙を、いつだって君は穏やかにゆるしてくれるから、僕は安心して君の声だけに耳を傾けている。

どうやったって共有できない記憶、時間、感情に、僕らは時々倒れそうになるけれど、その度君がふわりと手を繋いでくれるから、近ごろはそんな目眩さえも愛しく思えるようになってきた。
言葉が機能しなくなったら手を繋げばいいと教えてくれたのは君だったから、ソーシャルディスタンス的世界に居ても、いつだって手を繋いでいたいと思ってしまうよ。

終電ぎりぎりまでくすくす笑い合って、絵本みたいなパン屋で買った真四角キュートなあんぱんも、公園でとばした西瓜の匂いのシャボン玉も、サクサクのアップルパイとコーヒーも、お腹いっぱいでソファに溶けそうになりながら並んで観た映画も、ぜんぶぜんぶ最高だったな。

帰り際、今日は携帯の充電あるし、ひとりでちゃんと帰れるよって笑った僕を
「世界一信用ならねえ」
と駅まで見送ってくれて本当にLOVEだった。

napori歌いながら見上げた夜空は何処までも澄んでいて、
月があかるいだけで
君を見ているだけで
酒入ってなくても酔いが回ってしまうような僕だった。
「うさぎ見えちゃいそうな月だねえ。星も綺麗で贅沢だなあ…オリオン座、あんなにくっきり見える」
そう言って、隣で夜空を見上げている君の左目の下にも、小さくひかる黒子が四つ。こっそり繋いで、これは僕だけの星座だ。



2021.01.31

たのしかった1日を終わらせてしまうのが勿体無くて、ゆっくりゆっくりお風呂に浸かって、浴槽の中で朝日を浴びた。
早朝、ねむたい頭で君にラインをしたら、直後、
「昨日たのしすぎてだらだらしてたら朝になってた」
と返ってきたので、お揃いじゃんってまた嬉しくなってしまって、思わずベッドにダイブした。

ねえ君と会えて僕はさ
生きててよかったと本当にさ
大袈裟だと笑ってもいいよ
いつでも思ってるよ

君に貰ったラブソングを、そっと口ずさんでみる。

幸福ばかりの世界じゃない
僕らの毎日だけど だからさ
らぶそんぐを君にあげる

幸福ばかりの世界じゃないから、僕らは消えちゃいそうなきらきらを、大事に大事に拾い集めて、永遠なんかを願ったりする。
昨日、「ずっとなんてないのよ」と歌った君の声が微かに震えていたこと。君は気付いていましたか。
ねえ、だから僕は繋いだ手を、そっとぎゅっと握りなおすよ。

言葉じゃ言い表せない
だから太陽と月がある限り誓いを立てよう
僕と君 手を取り合ってくりかえして

「ずっと」なんてないかもしれないけど、今は手を繋いでいよう。
そしていつかこの手を離す日が来ても、また何度だってめぐり会って、くりかえし、くりかえし、君と手を取り合いたい僕だ。

照れくさい愛をいい加減な鼻歌にのせて誤魔化しながら、
僕からも君に、ラブソングあげる。