たしかな愛

半分くらいはフィクションです。

迷わずまっすぐ帰ってきてね

Google マップに頼らず歩ける人が好きだ。
「こっちだよ」と手をひかれた日には、軽率に「結婚しよう…?」などと思ってしまう。
おそらくは私が救いようのない方向音痴であるが故の生存本能みたいなものだと思う。

今日だって、珍しく早起きして家から歩いて20分くらいの不二家にケーキを買いに行ったら、案の定帰り道で迷ってしまった。
住宅街でスマートフォンの充電がなくなってしまった時の絶望感ときたら!

地図好きジャーナリストのサイモン・ガーフィールド

「運転中にダッシュボードのカーナビを見たり、歩きながらスマートフォンで地図を見たりすると、顔をあげて実際の景色をあまり見なくなる。今や、何百キロくらいもの移動がーあるいは国の端から端までの旅、ひょっとしたら大陸横断でさえ、通った経路をいっさい知ることなく果たせるようになった。これは衛生ナビゲーションの勝利であると同時に、地理学と歴史、航海術、地図、人間のコミュニケーション能力、そして、周囲の世界と自分自身とのつながりを感じる心の喪失でもある」(『オン・ザ・マップ』)

と言っていたけれど、私はまさにその典型的な例で、衛生ナビゲーションに全てを任せて歩いているので、自分の通った道をまったく覚えられない。だから帰り道で迷うなんて馬鹿なことを平気でやらかしてしまう。

結局3時間ほどふらふらと彷徨って奇跡的に帰宅した。
いくら方向音痴とはいえ、徒歩20分の道(しかも近所)でどうやったら3時間も迷えるのか自分でも分からない。それでもちゃんと帰ってこれたのだから、ある意味ついてるのかもしれない。

持ち帰ったケーキボックスを恐る恐る開けると、ショートケーキの角のクリームが少しひしゃげていて、これは苦闘の証だ、と思った。
しかし3時間も連れ回したわりに綺麗な面をしてるじゃねえか…(?)
幸い保冷剤もケーキもまだ冷たい。冬が寒くて本当に良かった。
早速母に「舘様のケーキ買えたよ」とラインする。

(舘様こと宮舘涼太君はアイドルグループSnowManのメンバーで、近ごろ母は彼に首ったけだ。そんな母が、昨夜不意に「不二家のCMで舘様が食べていたケーキをどうしても食べたい」と呟いたので、私は往復3時間20分かけて不二家のケーキを買ってきたというわけ。往復3時間20分は意味わからんけど)

「こんな親孝行な娘はおらんよ」などとふざけた追いラインを送ろうとしていたら、まだ仕事中のはずの母から
「ありがとう大好き!舘様のためにもうちょっと頑張る!お手洗い休憩のふりしてるからもう切るね!」
と興奮気味かつ一方的な電話がかかってきたので笑ってしまった。
好きなアイドルの名前を呼ぶ時、すこし浮ついた少女の声になる母が可愛くて好きだ。
ほんとうの親孝行は、きっとどんなにしたって全然足りないから、とりあえず今はショートケーキと一緒に母の帰りを待っている。