たしかな愛

半分くらいはフィクションです。

蝶は蛹の夢をみる

わたしは蛹、もうすぐうつくしい蝶として生まれます

蛹の中はどろどろで、熱くて、脆くて、めちゃくちゃで
しかし貴方はそれを愛おしいと言いました

わたしはうまく動けぬまま
ひたすら貴方を見つめていました
濡れた瞳のゆらめきをひたすら見つめていたのです

貴方はわたしを壊れるほどに抱きしめて
「やがてひとつになる」
と言いました

やがてひとつになる

わたしは幾度となくその言葉を反芻し
わたしの中を飛びまわる
貴方の鱗粉の煌めきと触角の震えを
ただただこの身の内に
留めておきたいと願いました

永遠という言葉の閃きに
うっとりと目を閉じました
薄い瞼の裏側の燃えるような緋色になるために
ひたすら貴方を見つめていたのです

しかし貴方は夜の匂いを正しく嗅ぎ分け
わたしの背中からそっと抜け出すと
「君は蝶にはなれないよ」
と囁きました

そうして貴方が何処へか
夕陽のように飛び去って行ってしまったその後も
わたしはうまく動けぬまま
焼き尽くされることを選び続けました

やがてひとつになる

解っていたのです
わたしはもう蛹ではなく
勿論、蝶でもありませんでした

わたしは徐に羽を広げます

それはうんざりするほどの漆黒でした
わたしはその醜さに絶望し、
しかしこの羽が乾いたら
ひとしきり飛んでみるつもりです

解っていたのです
望んだうつくしい羽ではないけれど
もうひとりきりでも飛べてしまう!

わたしは絶望し、
しかし月影に晒され鈍くひかる澱んだ羽を
なにか別な生き物のように愛おしく思いました

この羽が乾いたら
わたしはひとり
ひとりきり飛んでみるつもりです