ひとつも小説を書き上げたことがないのに、小説家になりたいと思っていた。
使い古しの言葉しか知らないのに、詩人になりたいと思っていた。
絵筆を握ったこともないのに、画家になりたいと思っていた。
たぶん、わたしは愛されたかった。
インターネットはそういうわたしに丁度いい、ぬるま湯みたいな場所だった。
未完成で平凡な言葉や絵でも、インターネットの中なら愛してもらえた。
1000人のフォロワーも、10000のいいねも、インターネット上の数字にたいした意味がないことは知っていたけれど、自分が特別だと錯覚するには十分だった。
毎日数百の通知を受け取ることで、ちいさな自尊心と有り余る自己顕示欲を必死に満たしていた。
ぬるま湯に溺れ続ける蛙みたいだ。
いつしか言葉も絵もわたしを離れて、愛されるための「何か」になった。
誰かを喜ばせるための、誰かに気に入られるための綺麗事しかかけなくなって、たぶんそれは悪いことではないけれど、でも、虚しかった。
そういえば、ヌードモデルになりたいと思ったこともある。
それは、裸のままで愛されることへの羨望と、痛々しいほどにうつくしい剥き出しの生命への憧れだった。
けれど結局、わたしは誰にも裸を見せることができなかった。
かきたいことがなくなってしまった。
でも、ここはもう少しだけとっておく。
いつか空の深さに気づいた日のために。