たしかな愛

半分くらいはフィクションです。

イノチミジカシコイセヨオトメ

花を見ていたら通りすがりのご婦人に話しかけられた。
「綺麗ね」
「綺麗に咲いてますよね」
「そうじゃなくて、あなたのことよ」
そう言って彼女は悪戯っぽく笑った。これが世に言うお世辞というやつかしら、と思いながらも頰が緩んでしまう。
「わたしもね、今じゃこんなしわしわのおばあちゃんだけれど、若い時はそれはもう綺麗だったのよ」
「殿方が放って置かなかった」
「その通り」
道を歩けば男はみんな振り返ったものよ、と彼女は笑った。
「恋人は?好きな人はいる?美しいうちにやりたいことはやっておくべきよ。花なんか見てる暇があったらどんどんいろんなとこに行って沢山の人に出会いなさい。花なんてのはずっと変わらず綺麗に咲いてるものなんだから。それにね、花の美しさが本当に分かるのはしわしわのおばあちゃんになってからなのよ」
なるほどそういうものなのかもしれない。
だけど誰に会うでもどこへ行くでもなくぼんやり花を眺めている方が、わたしにはよっぽどしっくりきてしまうのだった。

 

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ちょうど近所の梅の花が見ごろです。