たしかな愛

半分くらいはフィクションです。

愛日

二度寝したまま 落ちてくる春 羽はなくとも 歌はうたえる まぶしい夜に 栞を挟み さみしい朝に 時々ひらく ほどけた嘘も アルデンテして うつくしいまま 平らげるから 心配ないと わらってほしい 不埒なほどに ひかっていたい ピンクの海を 泳ぎきったら あ…

ふざけたダンスを踊って

「女が人を殺す映画ばっか好きやなあ」半年ぶりに会った元恋人から呆れたように言われ、心外だ、と思ったけれど、その通りすぎたので口をつぐんだ。 物騒でごめん。でも、「女が」とか言うひとがいるから、そういう映画が好きな女がいるんだと思うよ、とか言…

とんがりコーラとんこつラーメン

金曜日 22時過ぎ。クライアントからのフィードバックを待つ間、上司とコンビニまで数百メートルの散歩に出た。3月だというのに寒さは増してゆくばかりで、吐く息は白い。 チームの今後やプロジェクトについて申し訳程度に話し合った後、鳥羽水族館のラッコの…

三日月が綺麗

死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。 / 太宰治「葉」 先日、高校の同窓会が…

適切ならざる川の適切な私たち

「死ぬのが怖いとか思わなくなったな」 ソファに伸びていた妹が、独り言のように呟いた。「だって今まで生きてきた人はみんな死んでるわけだし、死ぬのってせいぜい生まれてきた時と同じ位の出来事だよね」と。 「それに結構もう自分の人生に満足しちゃって…

ブルーベリーナイト

物心ついた頃から、人の裸を見るのがすきだった。おそらく、長いこと銭湯通いをしていたせいだと思う。 幼稚園に上がる頃まで住んでいた家は、もともと病院だった建物をどうにか住めるようにした建物で、家と呼んで良いのかも分からないようなところだった。…

300円で廻る地球

コインランドリーで知らない人の生活がまわるのを見ていた。かなしいことがあると、決まっていつもここに来る。私には洗える物も特に無いから、代わりに、誰かが何かを洗うのを隅のベンチに腰掛けてぼんやり眺める。 就活生めいた男の子(ワイシャツとハンカ…

やさしく象にふまれてしまう

此処はずいぶん寂しいところ。半年前、私を此処に連れ戻した貴方も再び姿を晦ましてしまったので、私ももう十分なのではないかしら、などと思っています。 恐らく貴方は私の事を知らないでしょうし、私も貴方のことを知りません。しかし、私を此処に留まらせ…

寝不足にピンク

通知音で目が醒めて、開く画面はまぼろしだった。らしくないねって笑った君の目の奥のピンクが爪先に纏わりついたまま剥がれない。 染まりきってさよならって、どうせならもっとうまく笑えたらよかった。教えてもらった変な名前のバンドを、やっぱり好きにな…

愛を知らない僕たちは

「じゃあ、君はまだ知らないんだね、愛を」軽やかに3杯目のビールを飲み干した彼が言う。「あ、すみません、ビールもう1杯お願いします」と店員に呼びかける横顔が妙に大人びていて、私は思わず感心してしまう。彼とは小学生の頃からの幼なじみで、会うのは3…

ラブソングあげる

2021.01.30コーヒー飲みに行きたいなんてただの口実だった。 本当は君の住む街を見てみたかっただけで、でもきっとそんな下心、君にはバレバレだっただろう。腹心の友との逢瀬はいつだって最高だ。 昼過ぎ、君の家の最寄駅で待ち合わせて、黄色いコートを見…

迷わずまっすぐ帰ってきてね

Google マップに頼らず歩ける人が好きだ。 「こっちだよ」と手をひかれた日には、軽率に「結婚しよう…?」などと思ってしまう。 おそらくは私が救いようのない方向音痴であるが故の生存本能みたいなものだと思う。今日だって、珍しく早起きして家から歩いて2…

ジャングルで眠りたい

時々、ジャングルのことを考える。 鬱蒼と生茂る緑の中では、誰もわたしに気がつかないだろう。わたしは何時も言葉を間違えるけれど、ジャングルでは全てが意味を為さないので、臆することなく泣いたり喚いたり叫んだり笑ったり歌ったりすることができる。も…

病熱

毎朝8時12分 2両目に必ず君はいた 単語帳をなぞる指先に焦がれ続けて 下手くそな相合傘の申し出もしたっけ USBに詰め込んだラブソングは今も聴いてくれていますか 本当は僕をmp3にしてしまいたかった 君の鼓膜を震わせる全てが疎ましかった 伸ばした前髪も購…

Blue

「分からないんだよね。本とか音楽とか、誰かを好きになったりだとか、そういうことが。どうやったら人を好きになったり出来るんだろうね」そう言って彼はふわりとコーヒーを掻き混ぜた。まっしろなミルクがカップの底から浮かびあがり、やわらかな模様を描…

蝶は蛹の夢をみる

わたしは蛹、もうすぐうつくしい蝶として生まれます蛹の中はどろどろで、熱くて、脆くて、めちゃくちゃで しかし貴方はそれを愛おしいと言いましたわたしはうまく動けぬまま ひたすら貴方を見つめていました 濡れた瞳のゆらめきをひたすら見つめていたのです…

井の中の蛙

ひとつも小説を書き上げたことがないのに、小説家になりたいと思っていた。 使い古しの言葉しか知らないのに、詩人になりたいと思っていた。 絵筆を握ったこともないのに、画家になりたいと思っていた。 たぶん、わたしは愛されたかった。インターネットはそ…

202号室より愛を込めて

忙しなく回り続けるこの命を 貴方はうつくしいと言ったけれど 傾いた地面でバランスをとり続けるには 2本の足ではとても足りない 加速する微熱まじりの季節 ねえ、青く光って見えたのは 貴方の船底だったんだよ さよならする時にはきっと すべてを愛してみせ…

翳りゆく部屋

朝5時から2度寝3度寝を繰り返し、もう何度寝かわからなくなったころには日が暮れていた。 重たい睫毛をどうにか持ち上げて、半分部屋着のまま、コンビニで厚切りのチョコレートケーキ(たぶん4cmくらいある)を買う。 YouTubeでラーメンズを眺めながら生暖かい…

ひまわりが描けない

クレヨンのうたが嫌いだった。「どんな色がすき?」と聞かれて、赤と答えれば赤いクレヨンが、青と答えれば青いクレヨンがなくなってしまう、あの曲。幼稚園で歌わされるたび、わたしは泣きそうな気持ちになった。だって、すきな色からなくなっていってしま…

plenty

中学生だった。いつもplentyを聴いていた。 「蒼き日々」を聴きながらコンビニ袋片手に歩いた国道28号線。「風の吹く町」を口ずさみながら部屋の窓から眺めた工事現場。(あの家からは壊れた信号機や鉄パイプなんかが転がっているのがよく見えた)フローリング…

花に嵐

昼下がり寝ぼけ眼の遅桜 スカートにはらむ春風君を待つ 秘密だよつつじの蜜を吸ったこと 腕伸ばす列車の窓の夏の月 白シャツを踊らすコインランドリー 甘やかに香りくちなし気づけ馬鹿 達磨さん転べば迫り来る雷雨 驟雨なり涙閉じ込めたる絵本 五月雨に洗わ…

唇に取り残されしクリームを故意とみなして舐めとる僕は 甘すぎる果物なんていらないわ君の副流煙で死にたい マヨネーズまみれの指で舞踏曲プロポーズから一夜が明けて 目をあけて蛙に還るきっともう水の中でも苦しくないよ 太陽をうっかり恋と見間違いとか…

一行小説

『衝動』 夏を殺し損ねたまま俺は右手のナイフを持て余している。 『スクランブル・エッグ』 恐竜の背に跨って、引っ掻き回す。めちゃくちゃなくらいで丁度いい。 『幸福論』 「まったく馬鹿げてるわ」ラインマーカー塗れの哲学書に火をつけて彼女は言った。…

イノチミジカシコイセヨオトメ

花を見ていたら通りすがりのご婦人に話しかけられた。「綺麗ね」「綺麗に咲いてますよね」「そうじゃなくて、あなたのことよ」そう言って彼女は悪戯っぽく笑った。これが世に言うお世辞というやつかしら、と思いながらも頰が緩んでしまう。「わたしもね、今…

明けました

君の手にかかればしあわせを演じるのだってそう難しくはないかもしれないけど、強がりじゃなく笑える瞬間をもっと増やしていければいいな。 大好きな人たちが笑顔で過ごせる一年でありますように。 (ハッピーニューイヤー!)

20160301

白いチョークが擦れる音をぼんやりしながら聴いている図書室で借りた本は気付けばいつも期限切れで授業中も読み耽る文庫本体操服で飛び込んだ海はやっぱりちょっと塩っぱくて(フライドポテトには丁度いいかも)活動内容・トランプ ・テニス・鬼ごっこファミレ…

終末論

スカートの中で生まれた革命家宙返りよりいいことしたい ホルベイン漬けになりたい生きたまま呼吸やめるのウルトラマリン ハッピーなエンド嫌いの君のためさしずめ僕はノストラダムス 退屈な午後掻き回せマキアート格子模様が消え失せるまで 雨が今日降って…