たしかな愛

半分くらいはフィクションです。

一行小説

 

『衝動』

夏を殺し損ねたまま俺は右手のナイフを持て余している。

 

 

スクランブル・エッグ』

恐竜の背に跨って、引っ掻き回す。めちゃくちゃなくらいで丁度いい。

 

 

『幸福論』

「まったく馬鹿げてるわ」ラインマーカー塗れの哲学書に火をつけて彼女は言った。勢いよく燃え上がるアランを僕は救うことができなかった。

 

 

『誘惑』

ただ彼女の甘やかな歌声に酔いしれていたかった。気づけば水面は遥か遠く、僕はもう沈んでいくほかなかった。

 

 

『The World of the End』

通い慣れた市民プールとも今日でお別れだ。永遠に埋められないスタンプカードの空欄がやけに白く光って見えた。

 

 

『東京』

弾けたティーバッグから飛び出したキラキラを瞼にのせて、静かに夜が広がっていく。

 

 

『影戯』

「最後くらいフラッシュなんか焚かないで撮ってよ」

 

 

『ベランダの風』

具なしのラーメンにも具なしのラーメンなりの幸せがある。

 

 

『愛じゃない恋じゃない』

惰性で見てしまう金曜ロードショーみたいな男だ。エンドロールだって簡単にカットしてしまう。

 

 

『包子奇譚』

真っピンクの中華街を駆け抜けていくアロハシャツ。彼女には誰も敵わない。

 

 

『青天霹靂』

ヒールを折り、ストッキングを脱ぎ捨て、裸足で歩きたい日があるはずだ。きっと多分、誰にでも。

 

 

『卵かけご飯』

毎日欠かさず朝ドラを見るような人しか信じたくない。

 

 

『encounter』

立ち食い蕎麦のカウンターのはじっこで、割り箸を割るのが世界一うまい女の子に恋をした。

 

 

『宝石箱』

溶けかかったアイスクリームをスプーンで沈める。おもちゃみたいなさくらんぼは全く味がしなかった。

 

 

『青焼け』

積み上げられた週刊少年ジャンプはあるいは僕の孤独そのものかもしれなかった。

 

 

『ソフトクリーム日和』

三度寝に飽きたらパンダのカップルでも冷やかしに行こう。

 

 

『チョコレイト・ショー』

身体を蝕む甘い嘘も信じてみたい夜だった。

 

 

『まどろみ』

星を砕いて溶かした月に浮かべると、手の中の湯呑みはほわりと白い息をはいた。

 

 

『寝る前に少し話をしよう』

失くした物、別れた人、戻れない場所、きっと全部が君の子守唄になる。

  

 

『水玉ガール』

ドーナツ靴下をご存知でしょうか。靴下をくるくると巻き、丁度くるぶしあたりに輪っかを作るこの履き方をすると、わたしは何処へでもずんずん歩いてゆけるような気がします。

 

 

『乱反射』
その刹那、指先が彼女に触れた。熱をはらんだディスプレイだけが、きっと全てを知っている。

 

 

『花瓶』

愛してるなんて簡単に言ってくれるな。殺したいほどの愛だったのだ。

 

 

『鼓動』

胸ポケットに確固たる意志を忍ばせて、目醒めのときを待っている。

 

 

『眠らぬ街』

靴音を響かせろ。ポットホールを踏みつけろ。ひび割れたアスファルトエイトビートを刻みこめばこの街は全て僕のもの。

 

 

『午前四時』

散々使い古されたコード三つで君をとどめておけたなら。

 

 

『コンビニエンス・ランデヴー』

「歩くとき踵を踏む癖だけはずっと直らないのね」

 

 

『トワイライト』

灰皿に滲んだ光の粒が前に進めと言っている。

 

 

『ビューティー・スポット』

鎖骨に刻んだ北斗七星は26度を保っている。